ボートニャー赤以外全員誰だよ

 大学で知り合った友人が劇団員になった。彼女は、私が今まで出会った人間の中で一番面白い。言葉の使い方、面白いことをいう時の表情、全てにおいて私が太刀打ちできないほど面白い。高校時代には演劇部で、彼女自身が書いた脚本が高校演劇でそこそこの賞を獲ったりなどの活躍を魅せていたという。検索をかけてみたら○○(彼女の本名)様と呼ばれていてちょっと引いたりしたが、活躍していたことに間違いはなさそうだ。

 彼女のすごいところは、そんな活躍を少しも匂わせないところである。大学ではなんだかよく分からないクレイジーな風味を漂わせているだけである。一方で私はと言えば、バイト先で何かにつけて「僕土曜と日曜が部活で潰れちゃうんで休みないんですよ~」という話から相手の「へー、何の部活やってんの?」を引き出そうとしている。中学高校と文化部の私には、日に焼けて黒くなった肌でさえも隠しきれない文化部臭が出ている。それを「実は○○やってて、」という話から払拭しようとしている様はとても見ていられない。

 

 山里と蒼井優が結婚した。山里は面白い、山里は努力家、山里は良いヤツ、山里はよく見るとカッコイイ、山里はモテないと本気で思ってたの?、などなど、まあそうなんだろうけど後からそういうこと言うのってなんか結果的に自分の評判下げてることになりませんかみたいなことは置いておいて、ただただ震えた。どれだけ関係者からの評判が良かろうと、「山里が!?」という気持ちは、少なくとも俺にはある。

 

 劇団員になった知り合いのこけら落とし公演を見に行った。彼女が真剣に何かをしてる姿を見るのは初めてだった。冷やかし目的でもあり、もしアイツが主役とか張ってたらいよいよ死ぬしかないなと考えたりしていた。結論から言えば、中入りがあるタイプの舞台に行くのが初めての僕でも集中して楽しめるぐらいには入り込める内容だったし、彼女もまあまあの端役だった。「スマホを落としただけなのに」のアルピー酒井ぐらいの出方だった。そして、端役の割に主人公の取り巻きよりも余程印象に残る役だった。「あの出方で髪染めたんだ」「あの感じでもポスターに名前載るんだ」「やっぱり腕パンパンってカッコいいな」と、チャンサカの方はラジオリスナーだからこそ目が行ってしまう、千葉雄大北川景子目的で映画館に行った大衆には泡沫役であっただろうが、劇団に出ていた彼女は、他の役者目的で見に行った人々の目も奪ったように感じた。

 

彼女には才能も度胸も努力も根性も全てある、そして俺には全てない。これからどうしようかな、と思った。大学から急に運動部に入って鳴かず飛ばず、だったらいっそ勇気を出してお笑いサークルか落研でも入れば良かった。これからどうひっくり返っても俺は表現者にはなれない。まだ打ち解けてもないゼミの知らない同期達との飲み会で、そのうすら寒いユーモアを見下すことしかできない。就活をしなければいけない。今まで散々サボり続けてきたTOEICを遂に勉強しなければならない。舞台を飲み込んだあの時の彼女のようにはなれないけど、俺がまだ見下せているようなヤツらには絶対になるまいという気持ちが沸いた。

 

ニュースで山里蒼井優の結婚発表会見を見た。しばらく小忙しかったので、初めて映像を見たのは朝のニュースだった。蒼井優が語る山里の良いところは、昨晩の舞台で俺が彼女に感じたことを想起させ、少しだけ涙が出てしまった。

 

そういえば、終演後にエゴサーチをかけたら、また「○○さま」と呼ばれていた。やっぱり引いた。